あれから三年。僕は再びヴィラマリアを訪れた。
事前に連絡はとらずにふらっとやってきた。飾り付けや、ポスターの制作は結構大変なのだ。
家の前、いつものところに車をつけ、家全体を眺めて見る。
驚くほど何も変わっていない。
家のまわりの掃除も行き届き、芝生も綺麗に刈り込んである。そんなことがつい気になってしまうのが自分でもおかしかった。
懐かしさというよりも、つい昨日までここにすんでいたような錯覚を覚える。
この家の中に、今頃は仕事から戻ってきてテーブルを囲み、紅茶を飲みながら一休みしているみんながいる。
想像するだけでやけに嬉しい。
リンゴーン・・・。
ドキドキしながら、初めてこの家の呼び鈴を鳴らしたことを思い出す。
さて、どうなるのだろうか?
その呼び鈴には、知らない女性が出迎えてくれた。
事情を話すと快く扉を開けてくれたので、そおーっと中に入る。
家の中も記憶のままだった。
ダイニング・テーブルの隅には飲みかけの紅茶カップ。揺り椅子にぶん投げられたリュックからは、切り抜いたクロスワード・パズルがのぞいている。
「へエイ・・・・・・ウワァーオ!アウアーイー?」
懐かしい顔が飛び出してきた。
ああ、久しぶりだなあ、この「へエイ」ってやつを聞くのは。
「ねえ、シャリーン。この人のことを知っているの?」
シャリーンは吹っ飛んでいくと、ピアノの上からフォトスタンドを取って来た。
ブライアンの退院祝いにみんなで撮った写真だった。
「シャ、シャーリーン、なっ、なんてこったあー!おれ、つかまえたあー。よおおおっ、みっ、見ろっ!友達だあー」
「エイエイエイエイッ!分かってる、へイッ!」
緑のチェックシャツのアルフレッドがガバッと抱きついてきて背中をはたく。
あっ、また洗濯しないで着ているな。
「ブッ、ブライアン、こっちだあー。ブライアン!」
「・・・・・・」
「みっ、見ろっ、ブライアン。とっ、友達だあー!チッ、チキン、このチキンめ」
アルフレッドの呼び声に、居間の方からてこてこやってきたブライアンが、少しポカーンとした後、テーブルについて静かに紅茶を飲み始める。
「・・・・・・」
あれっ、おーい、おれだよ。忘れちゃったかな?
「フフッ、フフフッ・・・」
おっ、嬉しいな、覚えていてくれたんだ。
「ウッ・・・・・・ウウウッ。へイッ、シャリーン、コッコオ」
「へエイッ!やめろやめろっ!アウアーイー」
うわー、やっぱりそうでなくっちゃ!
騒ぎを聞きつけ階段を駆け上がってきたメアリーが、僕の顔を見た途端、あわてて階段を駆け下りていく。
紅茶をご馳走になった後、帰り支度をしていると、ふらふらと近寄ってきたブライアンが、僕のコートの袖をしっかり握って離さなくなった。一生懸命、焦点の定まらない目をパチクリさせながら、こっちを見上げて笑っている。
みんな相変わらずだなあ。
ブライアン、メアリー、シャリーン、アルフレッド。
僕は幸せ者だと思った。
彼らと出会えて・・・・・・。
あとがきを久しぶりに読み返して、そう、これは2000年の春先のこと。
書き終えたのは平成十五年(2003年)の11月になっている。
今日から僕は・・・
嫌われ者
すれちがい
ブラック・チキン
女神達の憂鬱
開かずの扉
ブラッド・テスト
不思議な夜
神頼み
男の約束
闇の音
見えないチカラ
激突
二ドル二十五セントの駆け引き
暖かい雪
ハロウィーンの夜に
ダブルパンチ
さすらいの便所男
ダンシング・クイーン
クリスマスの奇跡
特別な日
虹色
目次に続いて、
素直に生きてごらん!
知的障害者と呼ばれる彼ら。みんな個性的。そして自分勝手。
でも、みんな優しくて、みんな自分の世界を生きている。
表紙の帯にある言葉。
これは、みんなと過ごしたことで、恐る恐る、失敗失敗、自分の中にある偏見が崩されていく中から感じたこと。だれかに伝えたかった、残しておきたかったのは、見せてもらった素直なままのその世界。知らな過ぎたからこそ知った時の驚きと、心の中がどこか楽になった気持ち。
あるがままでいい、せっかく人間に生まれたんだから。
世の中にはこんな世界もあって、そして全然悪くもない、まだ覗いたことのない人や、生きることに息苦しさのようなものを感じる人へ宛てたものだった。
知らないものへの恐れというのは、誰にでもどこにでもあるものなんじゃないかと思うんだ。なんでもそう、接する環境がもとから身近にあれば、普通のことなのだろうけれど。
障害というものについてもおなじに思う。それは体のことだったり心のことだったり、生まれつきのものもあれば中途によるもの、意識をするようになってみると、いろんなものがあることに気づく。
縁があったりなかったり。一人の人間が体験できることに限りはあるもの。経験や思いを伝えてくれる人、残してくれる人、様々な立場からの声がもっと上がっていかないかな。知らなさからくる怖れ、自分にはいくらでもあるだけに、気の合う者にどこかで自然に出会えたら、その時は話を聞いてみたいと思う。
マイノリティ。知的障害者と呼ばれる人たちに接することへと、恐怖や抵抗を感じる人に、自分は途中から和らいだ者の視線で、行きつ戻りつ思うところを伝えていこう、最近、そんな意識を固めている。
先入観は、良い方へと傾けておけるに(これがあるとないとでは、えらい違いなんだよ、な、メアリー、シャリーン)越したことはないからね。
だれかの興味の置き所、お互い様で、知りうるチャンスが広がるといいな。